○VSイキュー1

「…以上が現在確認されている獣だそうよ。
私が教会から抜けだす前の話だから、もしかしたら
何匹かは斃されているかもしれない。」
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幼女と獣は道なき道を突き進む。
道中で幼女は獣に色々な事を話してくれた。
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世界は収縮していること。
獣達の争いによってのみ、世界の収縮が止まること。
幼女が「歪教会」という宗教組織の出身者であること。
教会は野望のために19番目の獣を作り、獣の王にさせようとしていること。
幼女とその妹が獣を作り出す儀式の生贄にされかかったこと。
妹と共に逃げようとしたが失敗したこと。
「歪教会」の至宝の十字架を持って逃げ出したこと。
妹を助け出すために獣達と戦わなければならないこと。
獣達の内何匹かが、これこれこういう能力だということ。
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そのどれもが、酷く断片的な語りかけだったので、獣には何となくしか解らなかった。けれど、幼女が深い悲しみと怒りを携えていることだけは解った。幼女の妹を助けてあげたい。世界の収縮を止めたい。
不器用な手足で歩みを進めながらおぼろげに獣はそう思った。
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「特に危険なのが、一の獣カッサリオ。
1:1の戦闘で彼女に勝てる獣はいないとされているわ。
何かしらの術がなければ逃げるしかないでしょうね。」
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急に獣の話に変わった。幼女の話は飛び飛びで、自分が思った時に思ったことを言うので、瞬時の理解がむつかしい。
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「でも、セミマル。あなたならどの獣にも負けないわ。
最後に生き残るのはあなただって、信じてる。」
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獣はその言葉にちょっと嬉しくなった。
そのため、一瞬隙ができた。
岩陰から飛び出した獣の存在に気付けなかったのだ。
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獣の腕にきゅるきゅると舌が巻きつき、その甘さを吸い取る。
あっという間に獣の腕は吸われ、縮み、使い物にならなくなってしまった。