●17の獣イキューと縮んだ幼女

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彼女が知覚するのは2種類の味覚のみ。すなわち、甘味と苦味、そのふたつだけである。音も光も匂いも無い世界で、舌に触れる物を味わいながら過ごしてきた。
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およそこの世に存在する物体は、ほとんどが彼女にとって苦いものである。そして、ほんの時たま甘味を得たとしても、それはほんの短い時間で淡く溶けていってしまうのが常であった。彼女は常に甘さに飢えていたのだ。
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ある時、イキューの舌に、これまで味わったことのないほどの濃厚な甘さを備えた「なにか」が触れた。
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彼女は夢中でその「なにか」を貪ろうとしたのだが、一舐めもしないうちに「なにか」はいずこかへ姿を消してしまった。これは、長大な舌と超自然的な感覚でもって獲物を追跡するイキューにとって全く無かった体験であり、彼女自身、これまで覚えたことのないほどの衝撃を受けた。要は「いたくプライドを傷つけられた」という訳だ。
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結果的に、イキューはそれ以降の生涯を、取り逃がした「とても甘いもの」への追跡へと費やすこととなる。
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ざっと100000リーデ、これほど距離を置けばさしもの化け物も追っては来れないだろう。
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そう判断すると、両足から力が抜けてへなへなと地面へとへたり込んだ。ほんの一撃で随分と「もっていかれた」ものだ、と自嘲する。
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ボロボロの衣服を、それでもなんとか体裁を整える。化け物の舌で削られた矮躯は、女を年端もいかぬ少女のように見せた。
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今では自身の背丈を優に超えてしまった、愛用の十字架を、それでも軽々と背負うと女─今となっては少女、と形容するべき容姿となっているが─はいずこかへとてくてくと歩み去って行く。
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