○VSイキュー2


苦い! 苦いニガイ苦ィ!!
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獣の腕を舐め取ったイキューはかつてない苦味に悶絶した。
色々なものを舐めてきたけれど、これほど苦いものは
初めてだ。全身から力が抜ける。体が蕩けそうだ。
極上の、苦さ!
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イキューは混乱している。生まれた時に味覚しか与えられ
なかった彼女はしかしその味覚だけは異様に鋭く、空気を
介して近くのものを判別する事ができた。
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忘れもしない。一度だけ味わった、「極上の甘さ」を
感じたからそこに向かって飛び掛ったはずなのに。
なんでこんなに苦いんスか。
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悶絶中で隙だらけのイキューは、しかしその味覚で危険を知り
咄嗟に後方に跳ねた。腕を舐め取られた獣の爪撃が空を切る。
その方向に反撃の舌を伸ばす。イキューの舌は胴体の深い所まで収まっていて、鉄砲のように瞬時に口外へ押し出す事ができる。攻撃手段が唯一の感覚器官であるから、対象がこれを避けた場合も空気の味を感じ取って軌道を微調整できる。回避不能の舌は太古に存在した防御不可の剛剣岩穿ちの再来だった。
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『岩穿ち』が獣に命中するまでの距離は僅か0.5秒。
イキューは舌を出したあとになって、獣の「苦さ」を思い出したが、回避不能なので、敵の報復なのだと諦め、これに耐える準備をした。が、
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「避けなさい、セミマル!!」
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『岩穿ち』が命中するかといった所で、獣の肩に座っていた幼女が右手の十字架で獣をブン殴った。吹き飛ばされた獣の横を、殴り飛ばした幼女の横を、イキューの舌が掠る。
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途端に脳髄を駆け巡る究極の苦さと究極の甘さ。
ここで初めてイキューは襲う対象が2つである事に気付いた。そして、どちらを舐めるべきかを。
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イキューは舌を体の奥に引き込めて、幼女に標準を合わせた。『岩穿ち』2発目。一度手の内を知られ、あまつさえ回避されてしまったが、幼女単体ではこの舌を回避する術はないように思えた。先ほど舐めた感触から、獣は100リーデ程遠くに吹き飛ばされている事が解る。
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勝てる。舐めれる。隅から隅まで一生忘れない程丁寧に。味わって味わって、舐め尽くす!