●少女と獣


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「私が食べる? お前を? よしてくれ。高貴な獣たる私が、なんで下賤で醜い人間の肉など食べねばならんのだ」
「……じゃあ、あなたは何を食べるの?」
「ふむ、そうだな。たとえば、それは雲のようで雲でなく、綿花のようで綿花でない、後味は喩えようもないほど甘美で麗しく」
「綿菓子かよ」
「あとはそうだな。スポンジに生クリームが乗ったものも好きだな」
「うわ子供舌だ」

 では何がこれまでの贄の娘たちをいくつかの綺麗な白い骨とボロボロになった汚い布に変えてきたのかといえば、それは普通に野犬や狼と小動物野鳥シデムシゴミムシハエアブの類なのだろう。そもそも私は起きるのも久しぶりだしな、とその獣は妙に言い訳めいた台詞を口にする。ああこりゃ何人かは食ってみたことあるなと少女は思うけれど、とりあえず今はその気がなさそうだしそれなら別にいい。緊急の課題は先に獣が提示した類の、そして少女があまり考えまいとしてきた類の、鎖に繋がれたままはらわたからご馳走様的痛すぎますよねその死に方を回避することだ。

「えーと助けてくださいお願いします。具体的にはこの鎖をチョンと」
「なぜ私が卑小な人間などの懇願を聞かねばなら」
「助けてくれたらケーでも何でも作りますから。」
「分かった」
 分かるのはえーよ。ほんとにお前はガキか。そう少女はつっこみかけたけど、まあ、助けてもらえるということだし、このつっこみは貸しだぜ、と心の中でそう思うにとどめておくことにした。