○幼女と獣は荒野を歩く


.
獣は幼女を肩に乗せて街を出る。
行き先は幼女の示すまま。
目的は幼女の思うまま。
.
.
獣はそれでいいと思った。
元より自分には目的や使命など無い。
幼女が何を考えているかは解らないが、
獣の目的はもはや幼女と定義されたのだ。
幼女が獣に何をしようと、獣にはそれを否定する理由がない。
.
.
「…それでね、セミマル」
.
肩に乗った幼女が獣に話しかけている。
獣は言葉を話せないのでただその言葉を聞くのみである。
.
「結局誰もこの争いには逆らえないの。
世界を収縮させてしまうか、獣の争いに勝ち
獣の王として世界を再定義するか。
みんなその運命に捉われているのよ。
.
人間も、獣も、随分と愚か。
…あなたもそう思うでしょう、セミマル?」
.
.
セミマル、というのは幼女が獣に付けた名前らしい。蝉から生まれたのでセミには違いないのだが、安直すぎるネーミングだと思う。
そもそも獣には別の名前がある。
しかし否定したくても喋る事ができなかったので獣はセミマルになった。
.
「私は、妹を取り返すわ。
この下らない獣の争いも、世界縮小の呪いも、
ぜんぶ全部ぶち壊す。それが私の目的。
そしてあなたの目的でもあるわ。」
.
.
話がよく飲み込めなかったが、
幼女にそう定義されたので
獣の目的は獣同士の戦いをぶち壊す事になった。
.
「戦いなさい、セミマル。己が目的を果たすために。」
.
獣は獣同士の戦いなんてしたくなかったし、幼女の真意なんてサッパリ解らなかったけれど、幼女がそのように命じるのでやはり戦う事になった。
.
.