○1匹の獣と姉妹の片割れ

これは 19匹の獣達が王の座を求め争う物語。

1匹の獣が野を駆けていた。
獣は四肢を持つ人のようでもあり、
甲殻を持つ蟲のようでもある。
猛獣の2倍はあろうかという巨体に
明らかに不適切な箇所に付けられた手足が
不気味な挙動でわしゃわしゃと地を掴み、地を蹴る。
わずか数瞬で巨躯が地平線の向こうの豆粒に変わる。
獣の疾走を止めるものは誰もいない。

獣には、記憶が無かった。


1人の少女が町並みを駆けていた。
少女は顔にまだ幼さの残る幼女のようでもあり、
身長120センチ以下の幼女のようでもある。
自身の2倍はあろうかという十字架を
明らかに不適切な箇所に付けて、
器用な動作でテケテケと走っている。
少女の疾走の後方には、複数の黒いローブを纏った追っ手がいる。